5月2日に、盟友、というか、兄貴分、というか、親分、というか、21年半にわたって親しく付き合いをしてきて、私を東京から福島へ連れてきた張本人、丹藤祐爾(たんどう・ゆうじ)氏が亡くなった。
楽しかった思い出、悔やまれること、それこそ筆舌に尽くせないが・・・。そのうち、少しずつ書いて行ければと思う。
先ずは、タンドーさんと、私と、落語を巡る不思議な縁について書き留めておきたい。
お互い東京にいた頃は、あまり落語の話をした記憶はないのだが・・・。とにかく一緒に過ごす時間はかなりあったから、身の上話などで、私の過去の「落語熱」は聞いていたのだと思う。
2002年暮れ、タンドーさんが福島に転居した後、私の家が「タンドー東京基地」になった。独り者だし、テレビのある部屋で寝られたし、放っておいてくれるし、そこそこ交通も便利だったから、居やすかったらしい。
年明け1月に上京した時「寄席に行きたいね」と意気投合し、とある一日、新宿末広亭で、昼〜夜席通しで遊んできた。じつは、それが私にとって、今のところの「唯一の寄席体験」(ホール落語はかつてずいぶん行ったが)。
さらに翌2004年。タンドーさんが、自ら開業した私塾 慧學舘に私を招ぶにあたっての誘い文句、「三澤くんは、落語を知ってるから“古典”ができるだろ? だから、国語を頼む!」。もちろん、落語の知識がちょいとあったからといって、国語(古文)指導の役に立つわけなどないのだが・・・。まぁ様々な理由があって、私は福島への移住を決断したけれど、この洒落とも真面目ともつかない誘い文句が効いていたのは確かである。
移住をしてきたら、塾のほかに、福島街中・チェンバ大町の「ミニFM局」の構想が進んでいて、企画が通って10月から開局してしまう。その放送番組の企画で「寄席番組がほしい」ということになり、情報集めをしていて出会ったのが「うつくしま芸人会」のテルサ寄席。公演を観覧に行き、代表のややまひろしさんに掛け合って、過去のテルサ寄席の音源を拝借し、一年間、お昼の番組として使わせていただいた。落語をキッカケに福島に来たら、もっと濃ゆ〜く落語に出会ってしまったのである。
少々時は流れ、昨2008年、私は塾を辞めさせてもらい、仕事を1つに絞り、秋口から「素人落語の会」へ参加させていただくことになった。10月13日に、別の用事もあり、久しぶりにタンドーさんに会って「今度、落語をやるんだ」という話をしたら、翌14日の夜。タンドーさんから、NHK「プロフェッショナル」で面白いのやってるよ、というお知らせメール。柳家小三治師匠の会だった。小三治師匠は、私が中学2年で「演者デビュー」したときの演題「金名竹」のお手本に仰いだこともあって、たいへん興味深く話を聞いた。私は滅多にテレビのスイッチを入れないし、もちろん番組表など気にしたことがない。タンドーさんが知らせてくれなかったら、見られなかったのだ。感謝。
そして、この5月2日。
急を聞いて、日赤に駆けつけたら、タンドーさんはベッドにいて、混濁した意識のなかにいた。
目が開いていたから、顔を見て、手をさすりながら「タンドーさん、タンドーさん」と話しかけること、約一時間。
「三澤くん・・・。三澤くん・・・。」と、タンドーさんが私のことを呼んだ。そして、
「三澤くん・・・落語! 三澤くん・・・落語!」としきりにねだる。
「えー、こんな病室でできないよ。でもね・・・“隣の空き地に囲いができたね”“へ〜”、これじゃだめ?」
【首をかすかに振って、ダメ出し】
「じゃぁ、なに、やろうか?」
次の瞬間、私は目と耳を疑った。タンドーさんは、明らかに顔を上手下手に振りながら
「ツ〜ッ! ・・・ル〜ッ!」
と云ったのだ。
「・・・じゃ、さわりのセリフの所だけね!“もろこしの方角から、一羽の雄の首長鳥が、ツ〜ッと飛んできて、浜辺の松へポイととまった。後から雌が、ル〜ッ、と飛んできて、ツルになったんだよ”」
そうしたら、タンドーさん「フフッ」と笑った。
そこへ、息子さんが到着したので、私は彼にその場を譲って、退場した。
本当は、高座で演っているのを観てほしかった。でも時間が合わなかった。タンドーさんも「行けなくて残念だ〜!」と云ってくれていた。
亡くなって、葬祭ホールに遺体を移した。儀式張ったことの嫌いだったタンドーさん、その心を汲んだ遺族、友人で「儀式的なこと」はほとんどやらない「お別れ会」にした。坊さんのお経も、時刻を決めての焼香・献花もなにもなし。儀式は納棺と出棺だけ。
いわゆる「お通夜」の席。特に私とも関係が深い友人たちが揃ったところで、タンドーさんの最期のリクエストの話をして、着の身着のままだったけれど、枕経のかわりに「つる」を、つい数日前の元気寄席での形、マクラもそのまま一席演った。結構良い出来だったようで、みんな笑ってくれた。席が席だけに、笑っていいやら困ったと、あとで云われたけれど。
「つるに始まり、つるに終わる」と、上方では云うそうだけれど、私にとって、忘れがたい、大きな、重い作品になってしまった。しかし・・・「つる」を最期のリクエストにしてくれて、タンドーさん、ありがとう。もっと精進するからね。
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