ドッヂボール
成人してからつきあい始めた人には、私が「小中学生の頃、空っきしの運動音痴だった」というのが、にわかには信じがたいらしい。まぁ、確かに体格良さげには見えるし。ただ、腕をよく見てもらうとわかるのだが、足回りに比べるとたいそう貧弱である。なにしろ、逆上がりも懸垂もまともにできなかった(今も実はできないかもしれない・・・)のだ。足回りが比較的立派になったのは、10代後半になってから、自転車で走くりまわったおかげである。それで、既製品のスーツを買う時は困った。太股はAB体じゃきついのに、ウエスト〜上半身はA体でもスカスカだから。
そんなだったから、小学生定番のスポーツ「ドッヂボール」では、常に「外野」に廻されていた。何というかは忘れたが、プレーが始まる時に外野にいるメンバー、その常連だった。内野にいれば、相手の投げつけてくるボールを受け止められなくて、すぐアウトになってしまうからである。とにかくボールが捕れない。スピードのある物体が近寄ってくると、つい背中を向けてしまう。これはもう敵にすれば思うツボ、良いカモである。こんな奴を内野に入れておく作戦はない。また、速いボールだけ捕れないのかというと、情けないことに、ゆっくりのにもビビって、ポットリ取り落とすのである。その上腕に力がまったくないから、相手コートにボールを投げればコントロールも勢いもないヘナチョコボールだ。要するに、外野の、しかも「球拾い」にしか使いようがないのだ。万年外野もむべなるかな。
しかし、私自身は、それに甘んじるままではいられなかった。やはり、やっぱり、どうにも口惜しくて仕方なかったのである。そして、小学校も高学年に進んだある日、チームメイトが続々アウトになって内野へ呼び戻された時(最初外野にいるメンバーは相手をアウトにしなくても内野に戻る権利がある)、勇気を奮って決意したのである。
「よし! 今日は、敵一番の投手のボールを受けて捕ってやる!」
彼の狙いは、当然ながらヘナチョコな私だ。大きく振りかぶっての投球。ところが、いつもだったらビビって身体の振れる私が、その時に限って至近距離で正面を向きっぱなしだったから、彼は「おや?」と感じて、コントロールがちょいと狂ったかもしれない。
対する私は「捕ってやる!」一点張りで、ボールに手を出した。ところが、長きヘナチョコ生活で、悲しいかな、ボールの受け方どころか、球筋の見極めすらできない。しかして少しく逸れたボールは私の右手親指を見事に直撃! 瞬間、私は大きな悲鳴を上げてその場にうずくまった。それまで経験したことのない痛みとともに、親指の付け根が見る間に腫れ上がる。間もなく近所の外科医に連れて行かれ「骨にヒビが入っていますね」と診断された。完治するのに二ヶ月ばかり通院したように覚えている。
かくして、私が奮った「勇気」は、悲惨な結末に終わったのであった。
それから30+X年。「投げられたボールの受け方」「ボールの投げ方」「勇気の奮い方」が、未だになんにも解っていないようだ、ということに今、気が付いた。
しばらくはおとなしく外野にいて、そこから、内野で楽しそうにプレーをしているみんなが、なぜあんなふうにできるのか、どうしたら自分もあんなふうにできるのか。じっくり観察して、よく考えないといけないな。
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