そなえよ つねに
一昨日の夕方、夕食の支度をしていた時。うちの同じ階のカツヤさんのご来訪をたまわった。
カツヤさんとは、ひょんなことから知り合った。一昨年6月の「元気寄席」がハネた晩だったと思う。「たらちね」の云いたての最中に、アタマの中が空白になってしまった、忘れもしない、タンドーオヤブン四十九日のこと。
近所で火事があったらしく、消防車がサイレンと鐘を鳴らして辺りを走り回っていた。バスだったかタクシーだったか記憶が曖昧だが、そうでなければまず使わない東寄り階段を登りきった4階外廊下、カツヤさん、タバコをくゆらせながら、火事の様子を眺めていたのである。
「こんばんは。火事ですねぇ」
「そうですねぇ……。ところで、こんな遅くまで、お仕事?」
「いえ、実は、ワタクシ落語をやってまして、その帰りなんです」
「へ〜! 落語なさるの。僕も大好きですよ」
……それから一時間近くも、話し込んでしまったっけ……。
それ以来カツヤさんは、ワタクシたちの寄席にしげしげとお運びくださるようになり、昨年4月の“演者3名各2席・都合6席”に“客席たった2人”という、とてつもない会にもお付き合いいただいたという……有り難い常連さんになってくださった。
この震災発生当初には、一緒に町内防災ボランティアを務め、集会所で同じ釜の飯を喰い、枕を並べて横になった仲にもなった。
そのカツヤさん、昨年「福島県文学賞」に応募、見事「エッセイ・ノンフィクション部門」で、奨励賞に輝いた。それで、一昨日は、作品の掲載された本を、ワタクシにくださったのである。
カツヤさんの作品の題名は「KBS45」。……AKB48ではない。カツヤさんが第一期生にあたる福島県ボーイスカウト第45、川俣支部の、スカウト当時の思い出を綴った作品である。
ワタクシはボーイスカウトに所属したことはない。しかし「ボーイスカウト的文化」とでも云おうか、その影響を大いに受けてきた。小中の頃に参加していた「ナチュラリスト」、高校の「生物部・地学部」、大学でサイクリング同好会、その延長にある大学連盟、そして、ネオライフ自治会やK&Kクラブマンズミーティング……。「ふくしま素人落語の会」も、例外でないかもしれない。
カツヤさん、最初は“KBS45”の中では、募集締切後に無理矢理入れてもらったこともあり、いわば“おミソ”的存在だったようだ。しかし、そんなカツヤさんに“隊付き”という身分を与え、いっぱしのスカウトに、そして作品冒頭で紹介される“極楽メンバー”に育てた“隊長”の導きの、すばらしいこと。
ボーイスカウトの標語「そなえよ つねに」。
その言葉が今、たいへん重い。
ヘラヘラ笑っていても、ワイワイ楽しんでいても、イザという事態への備えと度胸を忘れてはならない。
カツヤさん、今は町内会防災会の、恐れ多くも会長さんである。町内のみんなの安心・安全に、何をなせばいいのか、日々心を砕いてくださっている。
カツヤさんが幼少の頃に身につけたこと、隊長から受けた指導や、仲間との交流経験の成果を、今、ワタクシたちはありがたく享受しているのだ。
「そなえよ つねに」
この一言を、何かといえば「想定外」と宣って責任逃れをし勝ちな、おエライさん方に、ぶっつけてやりたい。
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