平林
3年前の「落語再デビュー」のとき、演りたい噺リストを作った。「平林」は、じつはその最右翼だった。
しかし、どういう風の吹き回しか、再デビューの初高座には“つる”を選んだ。「“つる”やりま〜す!」と云っちゃったあとで、我が家のストックを探ったところ、なんと、ひとつもない! 馴染みの書籍に図書館で当たったけれど、これにもない! はっきりした憶えではないのだが、少年時代に地元のホール落語会で、たった一度、桂 歌丸師匠の“つる”を、ナマで観た。これが、よほど、印象に残ってた、らしい。
この、再デビューの“つる”は、今の“とんぼ”の芸風、すなわち「時事問題」を絡める出発点になった。この時の“つる”は、結構ウケたし、自分でいうのもヘンだけど、あとでビデオ観て、自分で笑ってしまった……。ただ、その時そのままの“つる”は、今はもう、できない。世の中はめまぐるしく移り変り、時の首相の辞任の捨て台詞なんか、ほとんど誰も憶えてないだろう。しかも「浜辺の沖から、ツ〜ッ!」は……あの3・11の惨状を思い起こさせる……。今年“つる”は2回掛けたけど、GWに仙台へ押し掛け落語をしたときに、東北学院大落研部長、信祈楼かすみさんがやっていた「山バージョン」をいただきして「福島の山バージョン」に変えたもの。この先、少なくとも10年くらいは、ひょっとすると一生この先「浜辺の松に……」には、戻せないかもしれない。
それはさておき「平林」。
なぜこの噺を演りたいと思ったかというと……これもウチの「音源ストック」には皆無だから。
この噺、幼い頃馴染んだ落語の本には載っていて、記憶にさっぱりないながら、多分、中高生の頃、好んで高座に掛けていたはずである。なぜなら「タイラバヤシかヒラリンか、イチハチジュウのモ〜クモク、ヒトツにヤッツにトッキッキ!」と、スラスラっと出てくるから。
でもこれ、なんでウチの音源にないんだろう……、あ、オチが、まずいのか!
「気が違った」は、放送コードに引っ掛かりかねないもんなぁ……。
でもこの「平林」、たったそれだけで、知らない人が多い、なんて、もったいない! そうか……ひょっとして、今、放送に乗せられない落語って、ずいぶんあるのかもしんない。せっかくナマの落語をやるんだから、そういうものも(お客さまの不快を催さないレベルで)色々できたら、いいなぁ。
ワタクシが元々参考にしていた書籍では「タイラバヤシか……」をやるのは“権助”の設定。“つる”をとりあえずやりおおせての年末、東京の田舎へ帰省するとき、これを書写したものを持って、バスの中で少〜し稽古をしてみたのだけど……どうも、後味がよくない。
権助は落語の中の大立て者だけど、彼を主人公に据えて、しかも彼を笑い者にする噺は……ワタクシの来歴からいって、できたものではない。
悩んでいたときに出会ったのが、圓窓師匠の「落語図書館」。権助でなく、定吉が主人公。そして「平林」の読み方も、バラエティが増えている。「ヘイリン」が、埼玉・新座の「平林寺」と読みが同じだとは、その近所で育って、しかも福島移住直前にも住んでいて、通勤でほぼ毎日傍らを通過してたのに、ちっとも気が付かなかった……。目から鱗。
そして、談志師匠のCDからは「英語で読んだら」という、大きなヒントをいただいた。
まぁ、それを取り混ぜて……「定吉が、コトバ遊びに翻弄されるうち、とうとう仕舞に壊れちゃう」という……、とんぼの「平林」は、かなり、シュールな出来、なんざます。
明日(……おっと、油断してたら寝ちゃった……もう“今日”だ)は松川へ、この「平林」、持っていきます。
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