飼い主求む
仲間内から夕方、メールが来た。
“家族が往来で、轢かれそうになっていた子猫を保護して来たのだけど、どなたか飼ってもらえませんか?”
残念ながら、我が家は四つ足動物がご法度の集合住宅。残念だけど力になれそうもない、と、返事をするしかなかった。
「猫」といえば……タンドーオヤブンを、思い出す。
迷犬ダイを飼いはじめた頃。「オレは犬が好きなんだ! それにひきかえ猫なんて」と、散々ほざいていたくせに。
ある日訪ねると、オヤブンの店、ネオ・ライフのバックヤードに、茶トラの、まだ眼が開いたばかりとおぼしき、雄の子猫が……。オヤブンは彼に「龍太郎」と名付けて、それこそ“猫可愛がり”した。
よくよく話を聞けば、学生の頃、アパートで密かに雌猫を飼っていたことがあり、彼女がオヤブン宅の押入で出産したときは、付きっきりで面倒をみた、という……。
思い起こせば、オヤブンの店、ネオ・ライフのシンボルマークが「猫の顔」。なんのことはない、オヤブン、そもそもが大の猫好きだったのだ。
その龍太郎がいなくなった前の晩のことが、印象に残っている。
何かのイベントでしばらく店は無人だった。夜遅く、オヤブンとワタクシ二人、一緒にネオ・ライフの裏口へ帰ってきた。
ドアを開けて電気を付けたその瞬間。
龍太郎が、ものすごい剣幕で、オヤブンに喰ってかかってきた。オヤブン、龍太郎をなだめるのに、ずいぶん苦労していたっけ……。
騒ぐ龍太郎を何とかなだめて、ようやく休んだ翌朝。
龍太郎は、いなくなった。
しばらく経って、オヤブン、またどこからか、今度は黒トラの雄の子猫を連れてきた。彼には「富市」と名付けた。眉毛がどこか似てるから、と云っていたけど、早い話が、時の首相のファーストネームを子猫に与えて、それを呼び付けにしたり叱ったり……オヤブン一流のジョークなのだった。
その富市も、いつの間にかいなくなり……。武蔵村山でのオヤブンの“猫ブーム”は、去った。
オヤブンの“猫ブーム”が再燃したのは、福島の自宅を塾の教室に改装する少し前……。
当時街中に開いていた教室の帰り道に、灰白色の毛並みの雌の子猫をもらって帰った。“ニャン姫”と名付けて……学生時代の雌猫を思い出したのか、半端じゃない可愛がり様。
ただ“姫”は、龍太郎や富市と違って、やっぱり“姫”だった……。
“鼠算”というコトバがあるけど、猫だって、放っておくと、増えるわ、増えるわ……。
オヤブン曰く「東京なら猫の避妊に補助金が出るけど、福島にはない! そんな金、オレにあるわけない」と、放置プレー状態……。
結果ほどなく、われらが学舎は、近所で評判の“猫屋敷”と相なった……。
オヤブンが彼岸へ出立することになる、少し前。
“猫屋敷のイブ=ニャン姫”と、その長男格だった雄猫“ナミ”が、相次いで失踪……。
オヤブンは連夜「姫や〜、ナミや〜!」と、捜して廻っていたそうである。
周りにどう思われようとも、オヤブンは、そういうところが多かった……。
そこへ行くと……。ワタクシ、そういう度量は、これっぱかりもなさそうだ。
だから、いくら威張りくさったところで……子分止まり、なんだろうね。
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